たのしい工学

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HTTPSはまだまだ安全?Googleの実証した量子超越性

   

Googleが発表した量子超越性(量子コンピュータの計算能力が、スーパーコンピュータなど従来型のコンピュータを上回ることを示す)について、思ったことを少しまとめてみました。

量子超越性

今回、Googleが示した53qubitの量子超越性(スパコンが1万年かかる計算を3分で終えるという実例)ですが、ここで利用されていたものはNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer)という、計算結果にノイズを含むもの、つまり、古典コンピュータのような誤り訂正が行えるようなものではありません。しかしながらNISQの場合には、ある程度の規模の計算までは古典コンピュータよりも高速に計算を行えることが予想されていたようです。こちらの記事(2018年2月)(https://www.qmedia.jp/nisq-era-john-preskill/)では
「50qubit前後で量子超越性が証明できそうであり、その実現はもう目前であると言われている。」と触れられていますが、今回のGoogleの発表はまさにこの記事の想定を実現したものではないかと思います。
今回のGoogleがNatureに発表した論文(https://www.nature.com/articles/s41586-019-1666-5#Sec4)によると、展望の箇所で「最終的なショアやグローバーのアルゴリズムのような周知の量子アルゴリズム、実行するために必要な計算量を提供するために、量子誤り訂正の技術は注目の的になる必要があります。」と述べているように、実用的な量子アルゴリズムを実装した計算を実装するためには、量子誤り訂正の技術の発展が必要です。

HTTPSが破られるのはまだまだ?

HTTPSに用いられているRSA暗号は、膨大な桁数の素数の素因数分解が古典的CPUでは多項式時間で解けないことによって安全性が保障されています。
たとえば上記で触れられているショアのアルゴリズムは因数分解を行う量子アルゴリズムですが、これが実現するとRSA暗号が破られるといわれています。
量子誤り訂正を正しく行うためには、physical qubit(物理的に2状態系を構成する量子ビット)を組み合わせたlogical qubit(論理量子ビット)が必要になり、桁数の多い素因数分解を行う場合には1億qubitが必要とされます。1logical qubitの実装には、1000~10,000のphysical qubitが必要とされており、2019年3月現在では1logical qubitベースのシステムは実現されていないといわれています。

ですので、
・ 誤り訂正技術
・ 論理量子ビットの構成(多数の安定な量子ビットを準備する)
というふたつの技術的な壁があります。

世間ではビットコインの価格が暴落したりと、新たな暗号技術の準備が必要だといわれていたりしますが、世の中のしくみを変えてしまうほどのインパクトを与えるようなものが登場するまでには技術的に解決すべきことはまだまだあると思われます。

ちなみに、誤り訂正ができるようになるには楽観的予想で2030年ごろだそうです。よかったらこちらの記事もどうぞ
https://kihor.com/seminar-mls-qc-ml/

今回Googleの実証した量子ゲート型ともうひとつの方式であるアニーリング型についての記事はこちらから
https://kihor.com/q-annealing_q-gate/

ではでは

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