【量子コンピュータの仕組み】量子ゲート型と量子アニーリング型
以下、それぞれの特徴について紹介します
量子ゲート型
汎用的な量子ゲート方式は量子ビットの重ね合わせ状態(コヒーレンス時間)の維持管理が困難であり、またアルゴリズムの作成にコストがかかります。
量子ゲート方式の量子コンピュータを実現する上での問題はいかにして量子計算が完了するまでの間、量子状態を維持するかと言われています。この量子重ね合わせ状態が維持される時間のことをコヒーレンス時間と呼んだりします。
実際の物性(物質がしめす物理的性質)を利用して量子重ね合わせ状態を実現しようとするわけですが、現実世界には熱や磁場などの外乱が存在し、非常に繊細な量子重ね合わせ状態はこれらの影響を受けるとすぐに壊れてしまいます。
すると、量子重ね合わせ状態を利用して計算を行うわけですから、その状態が壊れてしまっては計算ができなくなってしまうわけです。
なので、
できるだけ量子重ね合わせ状態を維持できるものを、ということで、熱の影響を受けにくい超伝導体を利用するなど、さまざまな手法で量子ゲート方式の量子ビット実現に向けた試行錯誤がおこなわれているわけです。
量子アニーリング型
一方量子アニーリング方式は組み合わせ最適化問題に特化していますが、ほしい答えを求めるための各要素の関係性を組み込めばアルゴリズムは必要なく、維持管理もゲート方式に比べれば簡単だとされています。
カナダの量子コンピュータベンチャー、D-wave社がつくった量子コンピュータが、このアニーリング方式をつかったものです。
そもそもアニーリングとは何なのかということですが、(日本語では「焼きなまし」(焼なまし - Wikipedia)といいます。)
アニーリング - Wikipedia
simulated annealing(焼きなまし法) - 乱択アルゴリズムの一種で、徐々に「温度」に相当するパラメータを小さくすることで、できれば最適な、そうでなくとも最適に近い極値が求まることを期待した手法。
D-wave社のつくったアニーリング型量子コンピュータの場合には、この温度に相当するパラメータは「磁場」で、磁場を磁性体(磁石)にかけることで、磁性体のもつスピンがランダムな向きを向きます。このスピンがランダムな向きを向いた状態が量子重ね合わせ状態に相当するものです。
磁石とは、スピンの向きのそろった物質のことです。
(磁石についての説明はこちらに詳しくありました
http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/k2jiki/magpole.htm)
この状態から徐々にかけている磁場を弱めていくと、磁性体間の相互作用が徐々に顕著になってきます。つまり、ランダムに向いていたスピンの方向が徐々に定まるようになり、その結果、それぞれの磁石の間に働く力があらわになってくるということです。
こんな説明をしてもきっとわかりにくとおもうので、これを直感的に説明したのがこちらです。
箱のなかにブロックをすきまなく詰めることをイメージしてみてください。
従来のコンピュータの仕組みはこんな感じです。箱のなかにブロックをつめるのに、どこにつめたらよいかを逐一考えて入れる必要があります。
量子コンピュータはこんな感じ。とりあえず、場所とか位置は考えずに箱の中にブロックを入れちゃいます。この、とりあえず、ばらばらに入れるというのが、量子重ね合わせ状態に相当するものだとおもってください。
で、どうやってきれいに箱のなかにブロックを詰めるかというと、箱をゆすってやります。すると、いい感じにブロックがいちばんおさまりのいい場所にはまってくれるのです。箱を「揺する」行為が磁場をかけることに相当します。そして、揺さぶりを弱めていくと徐々におさまりのよい場所におちついてくるというのが、磁性体間の相互作用が強くなることに相当します。
いい感じにブロックが箱のなかにおさまりました。
これが量子アニーリング方式の直感的なイメージです。
このようにして、たとえばピザを配達するために30箇所を経由しなければいけない場合、どこの経路をたどると最短になるかという問題にたいして、従来のコンピュータと比較しておどろくほど高速にもとめることができるのです。
ちなみに、知り合いに聞いたのですが、量子アニーリングがいつも必ず従来のコンピュータよりも高速に問題を解くというわけでもないようです。これは実験的にしめされており、古典コンピュータよりも常に高速に問題を解けるという数学的な証明がなされていないので、あくまで高速化は確率的に起こるものだということらしいです。
アニーリング方式はこの組み合わせ最適化問題に特化したものではありますが、世の中には、膨大な組み合わせのなかからどれを選んだら一番効率がよくなるか?という問題が数多くあるので、アニーリング方式は世の中の課題解決のためには非常に有用であり、現在期待されているわけです。
具体的には創薬のための量子化学計算、機械学習の計算効率化等、解決したい組み合わせ最適化問題はたくさんあるのです。
とりあえず量子コンピュータの概要を学んでみたい方はこちらの本がおすすめです。
量子アニーリングが中心の話題ですが、数式を使わずにわかりやすく量子アニーリング型のしくみが説明されているよい本だとおもいます。
ではでは!